占いと言えば、小学校の頃クラスでこっくりさんが酷く流行した時期があり、禁止令が出たりで大変でした。
確か新聞記事でも(事件になって)目にしたし、全国的ブームだったんじゃないでしょうか。
ガキの遊びとは言え、こっくりさん以外にも、『エンンジェルさん』やらなんやらいろいろな方式があるようで、文字盤の書式や呼び出しの文句が違う。
そういうの好きな子が占い本とかでネタ仕入れてくるのか、新しい方式などがいろいろ伝わってきました。
これは『狐狗狸さん』と書き、キツネ・イヌ・タヌキの文字を当てるように動物例と交信する交霊術の一種ということなのだそうです。
さらにどこからともなく生まれてくる『○○さん』という新しいなにがしかが生まれてきて、新しい召還法が生まれてくる現場なども目撃しました。
ガキ丸出しなんですが「うんこちゃんうんこちゃん!なんちゃらかんちゃら!(忘れた)」と呼び出しすと、『うんこさん』が出てくるというもので、このウンコさんは、十円玉が狂ったようにびゅんびゅん暴れまくって、さらに暴力的な言葉を発するという人格が設定されており(死ね死ね連呼したり)、そのような動きをすれば、見事ウンコさんお出まし!ということでした。悪霊の一種であろうという解釈です。
しかしうまく対応して手なずけると、他のものより使えるとされます。
これはもともとエンジェルさんなどをやる際に、時と場合によって十円玉の動きが違って、どうやら降りてくるものに個性があるようだぞ?という理解が広まり、「あ、こいつあのときのアレだ」と分かりだして降りる存在に個性が生まれたものです。
世の民俗の神や悪魔、精霊の発生の現場をまさに見たと言えるでしょう。
さて、このたび読破した書籍はコレ。
『中国のこっくりさん - 扶鸞信仰と華人社会』
著者:志賀市子
発行:大修館書店
価格:1800円
ISBN:4469231959
なんだかキャッチーな書名ですが、学術畑の民俗研究者、特に道教研究者の志賀氏が大学の論文として研究してきた成果を一般向けにまとめなおしたもので、物凄い労作です。
中国や世界の華僑文化圏における道教結社史なども押さえており、非常に素晴らしい本でした。
ここまで情報過多すぎる本気な本が1800円で読めるのは素晴らしいです。
さてこの本では、香港や台湾で今日も盛んな、扶鸞(ふらん)もしくは扶乩(ふけい)と呼ばれる、桃や柳の木で作った筆を用いて砂盤に文字を描く、こっくりさん的な占いを中心に研究しています。
日本では狐狗狸さんは明治維新以後に、西洋のスピリチュアリズム(心霊主義)ブームで生まれた「自動筆記」の輸入によって伝わったとされるのですが、
この中国のものは、5世紀にまで遡る江南地方の紫姑神(しこしん)を迎える風習にまで遡るという。
紫姑神は生前不幸な生活を送り失意に死んだ可哀想な女性で、死後神仙になった存在です。その迎える儀式が正月にあり、そこで原始的な占いがあったのですが、宋代には現代の扶鸞と全く同じ方式が生まれます。
そしてさらに交霊相手は紫姑神に限らなくなり、道教の数々の神仙との対話術として発展していくのです。
当初は降りるのは女性神ばかりであり女性の文化であったものが、神仙の言葉を聞く手段として男性文化人の文化として隆盛を極めます。
神仙が扶鸞を通して書いたとされる道教書などが大量にあり、リアルに神仙を現実の存在として対話をするという文化があったのです。
そのような扶鸞結社が多くあり、現代でも扶鸞をする道教結社では信徒はそこの神仙と弟子入りの契約をし、日々教えを聞きます。
呂洞賓、関帝、済公活仏といった人気神仙が発する活き活きとした言葉に、人々は頼るのです。
同じような交霊術としては、イタコのような憑依して交霊する台湾の童乩がありますが、扶鸞はその手の狂乱はなく、術者はあくまで筆を支えているだけで素であるあたりでかなり赴きが違います。
日本ではイタコなどの巫女による憑依の交霊術はありますが、そういえば自動筆記系の交霊術はさっぱりですよね?(あるのか?)
中国から伝わらなかったのだろうか? 江戸期に中国臨済禅である黄檗宗を伝えた隠元が、日本行きにあたって扶鸞で神仙に問うたという驚きの話なども載っていたのですが(当時の文化人にとって当然の風習だったのでしょう)、隠元が扶鸞を日本に伝えたという話も聞いたことがない。
日本でのこの手の占いは聞いたことがないのですが、やはり維新まで伝わってなかったのか?少なくとも盛り上ったというのは聞かない。
しかし小学校のこっくりさんブームに見るように、日本人は決してこういうの嫌いってわけではないと思います。
恐らく江戸期に伝わってたら、あれほど占いだの大好きな江戸人は熱狂していたと思います。
現代日本でも各種占いがありますが、実はこっくりさんという形式は、ニッチついててアリじゃないんでしょうか?(笑
イタコ的な憑依は現代スマートでなさすぎるので客層選びそうだけど、扶鸞は見た目にいたってスマートなので受け入れられやすい気がします。子供の頃素養のあるこっくりさんですしね。
単によく知らない人が霊感で感じた!というより、自動筆記で現れた文字が図像を解釈するほうが一見さんには訴えるような気もします。知らんけど(笑
というわけで書評でした。
この本すごく熱の篭った労作で、学術寄りとはいえ、一般に考慮もされており読み物としてもとても面白かったです。
占い好きなかたは一度読んでみてもよいかも。
(そして私のような民俗学好きにおすすめ)